1. Home
  2. /
  3. BLOG
  4. /
  5. ディスクレビュー-ジャスティン・ビーバー「Changes」

ディスクレビュー-ジャスティン・ビーバー「Changes」

タグ:

ジャスティン・ビーバーの新作が素晴らしい。素晴らしいとは言っても、これは音楽的に素晴らしいのではなくて、むしろこのアルバムの作り方が斬新だ、という意味になる。

まず、驚かされるのが極端に音数が少ないこと。これは近年のポップスによく見られる傾向だが、ジャスティンの場合は意図的によりシンプルに、よりソリッドに、飾りつけなしの裸の音楽という感じがする。それによって甘くメロウなメロディがより際立つことになっている。しかし、この引き算のアレンジは負の面もあって、どの曲も同じように聞こえてしまう。しかし、これはむしろ狙ったことだと思う。

このアルバムは分数が約3分、2分の曲もある。その代わり17曲とかなり収録曲が多い。そして、各曲のクオリティはどれも一様に高い。どれかが著しく優れているわけではないが、劣っているわけではない。ここにこのアルバムを紐解くカギがある。

現在はサブスクが音楽の主流となり、もうアルバムを一枚集中して聞くという文化はすたれてしまった。たいていはプレイリストを聴くスタイルだ。だとすれば、アルバムからどの程度プレイリストに入れられるかが勝負になってくる。プレイリストに入れば定期的に視聴され、お金が入ってくることになる。このアルバムはそれを狙ったのだ。アルバム全曲が再生される必要はない。17曲のうち、せいぜい4曲くらいがプレイリストに入ればいい、という意図が見える。

だから、アルバムの曲が似たり寄ったりなのは別に構わないことなのだ。どれもシングルになってもおかしくない短い曲を量産し、プレイリストに入れてもらうほうが効率よく利益があがる。中には二番がない曲もあるので、曲を短くしたほうが必然的に曲数が増え、アレンジの工程もはぶける。

このアルバムの曲は二つにわけるなら、ローファイヒップホップ系とトラップ系に分けられるだろう。どちらもヒップホップのジャンルだ。と言ってもラップしているわけではないが、あくまでトラックの性質の問題だ。どちらも今旬のジャンルであり、必然的にこういうアレンジになったのだろう。前半がローファイで公判がトラップなのでバランスもいい。また、トラップのトラックが非常によくできている。そしてサブベースが主張しても負けないメロディになっているのはさすが。

今後こういうアルバムはどんどん増えていくだろう。日本でもアルバムという概念が見直されている。ジャスティンのこのアルバムを機によりポップスは商業的な成功を収められるものへと進化していくだろう。あるいはそれはアルバムの衰退という事態を招くのかもしれないが、そんなじじくさいことを言っても仕方はない。時代は変わるのだ。それにいい曲は今もこうやって生産され、聞かれている。リスニングスタイルが変わろうと、音楽を愛する気持ちは変わらない。