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映画評論-「スワロウテイル」

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映画評論を書くにあたって心に決めていることが二つある。一つはネタバレしないこと。もうひとつは記事を読んだ人がその映画を見たいと思ってくれるような記事を書くこと。

さて、今回取り上げるのは知っている人も多いだろう、岩井俊二監督の大ヒット作「スワロウテイル」だ。Charaのデビュー作であり、劇中に出てくる「YEN TOWN  BAND」は実際にデビューしており、これがきっかけとなり、Charaはソロデビューも果たすことになる。

この映画は高度経済成長期の日本にやってきた不法移民の中国人やアメリカ人が住んでいる「YEN TOWN」というスラム街が舞台だ。当時、日本円の価値は非常に高く、円を中国に持って帰るとレート換算で大金持ちになれるので貧民層が夢を描いて日本にやってきた。しかし、そんなに話は簡単ではなく、女は娼婦に、男は盗みを働いてまともな生活ができないままYEN TOWNに住むことになる。また、YEN TOWNには円を盗むという意味もあり、日本人からあいつらはYEN TOWNだ、と揶揄される。

主人公は娼婦を母に持ち、名前もない、一人の少女。母が急死し、誰も引き取り手がいないところにChara演じるグリコに引き取られるようになる。その後、YEN TOWNの仲間とともに、あることがきっかけで大金を不正に手にしてしまう。

そのお金を元手に彼らはライブハウスをつくる。そこで結成されるのがYEN TOWN BANDだ。一躍、グリコはスターとなり、レコードは売り切れ続出の大ヒットとなる。しかし、YEN TOWN BANDの仲間が不法移民だとわかるや否や警察に逮捕されたり、不正にお金を手にしたがためにヤクザに命を狙われる羽目になり…。

この映画を見始めた当初はあまりに暗いシーンが多く、中盤で成功を手にするが、もしかしたらみんな死んでしまうかも…なんてひやひやしながら見ていた。たしかに見ようによってはこの終わり方は報われない。しかし、彼らは一様に成功を夢見て、YENを得ることだけに執着してきた。しかし、最後に彼らはYENに執着することをやめ、呪縛から解放されるのである。身に余る成功も捨て、自らの身の丈に合う生活をするようになる。結局、もとの黙阿弥なのだが、彼らにとってはそれは大きな前進であったはずだ。

最後のシーンのなんとすがすがしいことか。この映画はスカッとしたいときにぜひ見てほしい。中盤まではヒヤヒヤするが、最後を見てそれを吹き飛ばすくらいの快感があるはずだ。

これはいわゆる不良映画とみることもできるだろう。法に触れることばかりやっている。だけど、彼らには彼らなりに目指すべきところがあり、手にしたいものがあったのだ。必死に生きていた。だから、彼らが法に触れることをしていたとしても、受け入れられる。そこには彼らの生き方や正義があるからだ。とても清いと思えるのだ。

また、やはり岩井俊二の映像マジックには驚くものがある。こんな映像をとれるのは彼しかいない。とにかくワンシーンどこを切り取っても絵画のように美しいのである。また、小林武史の音楽が美しく映像を盛り上げることにより、映像的快楽は極限まで高まる。

とにかくストーリーから映像表現から音楽まで、すべてが完璧なのだ。邦画でこの完成度は目を見張る。一大傑作だ。