実はホールジーというアーティストをこのアルバムで知ったのだが、後で調べてみるとThe Chainsmokersの「Closer」のボーカルだった。彼女はアメリカ出身のシンセポップアーティストであり、本作が三名目のアルバムとなる。
まず、僕が驚いたのは彼女のサウンドのシンプルさ。とても整理されていて、無駄なところが一切ない。近年のトラップでは低音重視だし、EDMは高温重視。そのどれにもあてはまらず、全帯域がバランスよくなるように計算してアレンジがなされている。これはとても高度な技術で、ミックスしたときにどうなるかイメージできなければならないし、逆に音を足してしまったほうが簡単だ。J-POPなんかは音が過剰に入っていて、下手なメロディを飾ろうと躍起になっているのがわかる。しかし、このアルバムは実にメロディが美しく、だからこそ最低限の音構成で成立する。
また、コーラスワークが独特で、コーラスというと基本的に3度か5度をあてるのだが、彼女の場合は4度や6度などの他のテンションに充てている気がする。だからコーラスがより広がりをもって迫ってくる。独特のハーモニーがあり、ある種、ゴスペル的な奥行きがある。彼女はそこにボコーダーをかけるので余計に特徴的になっている。
正直、ここまでポップなものを高品質にやられると二の句が継げなくなる。EDMは結局、使い捨ての音楽に過ぎなかったし、トラップは低音だけなっていればいいとみんな思っていてコード楽器やウワモノ系をおろそかにする。本当に残っていく音楽というのは、まず、いいメロディがあって、そのうえでそれを引き立てるアレンジがあることだ。そんな基本的なアレンジの作法もわかっていないような人たちがビルボードに居座っているのは納得がいかない。ホールジーのような新世代のシンセポップアーティストにも注目してもらいたい。