これほど完成度の高いアルバムを聞いたのはいつ以来だろう。
それほど、このアルバム「あにゅー」はロックアルバムとして完成されており、みんなが待ちに待ったRADWIMPSの音が詰まっている。
御存知の通り、去年、RADWIMPSのギター桑原彰が脱退し、RADWIMPSは野田洋次郎とベースの武田祐介というバンドとしては異質な2人での活動を余儀なくされた。
ロッキング・オン・ジャパン2025年11月号のインタビューによると、この喪失は大きく、一時はバンド解散の話も流れたようである。しかし、メジャーデビュー20周年の年に解散したくない、このまま進むことを選びたいという野田洋次郎の強い要望により、新たなギタリストを探すことになった。
しかし、これがまた大変難航したらしく、野田洋次郎いわく、バンドのメンバーとはただうまいだけでは駄目だというのだ。これから長い時間を旅する仲間として一緒にいられるか? 楽屋での雰囲気や居心地の良さがないとバンドとしてはやっていけない。
そこで去年の年末から大小を問わず様々なライブハウスを巡り、現在のサポートギタリスト白川詢に出会った。
彼について野田洋次郎はこう語る。
上手いギタリストはいっぱいいるんですけど、やっぱ俺はバンドをやりたかったから。ドラムの森瑞希に入ってもらったときも同じ感覚だったんですけど、そういう自分の人を見るときの直感みたいなものだけは自信があって。ほぼ恋愛的な感覚に近いんですけど。会った瞬間に「この人なのかも」ってわかるというか。今まで生きてきた40年間の実績があるから、そこに対する自信があって。詢はまだ何者でもない感じだけど、ふとした時の大物感と、音を鳴らしていない瞬間も含めての居心地の良さがあって。それはすごい恋愛的だと思うんですけど。何もしてないときの楽屋とか、レコーディングスタジオのブースとか、何も言わなくてもいれる感覚。その感覚はでかいですし、森瑞希も「俺、高校時代カバーしてました」って言って入ってくれたし、白川詢も「RADWIMPSコピーしてました」って言ってくれて、そうやって俺等がまいた種が、いつの間にか彼らの遺伝子の中にも入っていて、それと出会ったりするんだなっていうのは感動的でした。
ロッキング・オン・ジャパン2025年11月号より引用
まさに奇跡的な出会いがバンドを救い、このアルバムを完成させるに至ったのである。夏フェスで白川詢は正式にサポートとしてデビューしたが、原曲へのリスペクトを込めつつ、新しく解釈した音に観客も騒然となったようである。
RADWIMPSは今年、デビュー20周年。そこでこの記念すべきアルバム「あにゅー」がリリースされたわけだが、このアルバムはほぼすべて今年中にレコーディングされた曲で固められているらしい。
前作「FOREVER DAZE」以降にタイアップで書いた曲もあるにも関わらず、あえてアルバムから外し、白川詢を迎えた新体制でのバンドで今作の制作に挑んだ。なんと制作期間は半年ほどだという。
そして、このアルバムは新たなRADWIMPSのバンドとしての形を決定づける最高傑作である。
ロックとしての一つの完成形、理想的なバンドの音が鳴っている。
まず、一曲目「命題」から度肝を抜かれる。
近年のRADはどちらかというとピアノやストリングスなどバンドから離れた音作りが多かったが、この曲では歪んだギターが空間を支配し、ストレートなロックサウンドが耳をつんざく。
まるでこれから再びデビューするかのような、まさに「あにゅー」なサウンドである。
これまでのRADの音とはやはりリズムもアレンジも違う。ロックとしての切迫感がありながらもシンプルながらも奥が深いリードギターで突き抜けるように広がっていくサウンド。RADはバンドとして生まれ変わったのだ。しかし、その芯には野田洋次郎が描く繊細な心理描写があり、核は変わっていないのだと実感する。RADらしさを保ちつつ、新たな風を吹かせるギタリストが加わったからこそ、こうしてRADは再びロックの主戦場に立てたのだ。
そして、朝ドラ「あんぱん」の主題歌として半年を彩った名曲「賜物」。
こちらは打って変わってストリングスがフィーチャーされ、より大きなサウンドが鳴っている。しかし、Bメロでベースがスラップしてラップに変わるところとか、やっぱりRADだなと思わせるテクニックも覗かせる。RADらしさを保ちつつも令和のサウンドとして新しい。この豪華なストリングスは昭和の歌謡曲を思い起こさせる。当時は何十人ものストリングスが入って豪華なレコーディングが行われたものだった。「あんぱん」が昭和が舞台のため、もしかしたらそういう意図があったのかもしれない。しかし、このアレンジはやはり令和のサウンドとして完成されている。伝統と革新の一曲である。
僕がこのアルバムで一番好きな曲は「筆舌」である。
ATMまで行って金貸した脚本家の彼は今や売れっ子だけど
あの時のなけなしの5000円はまだ返ってきてなかったり
生きてりゃ 色々あるよな
生きてりゃ 色々あるよなぁ そりゃそうだよなぁ
そういうもんだな
こういう私的な歌詞を入れてくるところが野田洋次郎らしい。まさに彼の人生をそのまま書き写したかのようなあけすけな歌詞だ。RADはこういうちょっとずれたことをやりたがる。そういう彼の無邪気さや素直さに僕らは共感してしまう。RAD好きにこそ聞いてほしい一曲だ。
アルバムを締めくくるのはピアノが印象的なバラード「ピアフ」だ。この曲はエディト・ピアフを描いた舞台を見たときの感覚をもとに書いた曲だそうだ。
RADは音楽で多くの人を救ってきたバンドだと思う。そして、この曲も誰かの絶望に光をもたらしてくれることだろう。
最後の一行が心に染み入る。
それでもあなたには 笑っていてほしいの
これを超えるような願いが
どこにも見当たらない
従来のRADらしさを残しつつも新たなメンバーを迎えてロックバンドとして覚醒したRADWIMPS。これからの活動からも目が話せない。