11月8日に新曲「Find me」を公開しました。せっかくなのでこの曲の制作秘話をお話しようと思います。
まず、この曲は明確にリファレンスがあります。リファレンスというのは「参考曲」という意味で、プロの方は必ずリファレンスを立ててその曲を下に楽曲を構築していきます。
僕は今まで「リファレンスを立てるとオリジナリティが損なわれるからしない!」という立場だったのですが、これって逆なんですよね。
僕、10年以上作曲をやってきているので、作曲数で言うともちろん100曲は超えてますし、200以上かもしれません。数えてないので正確な数字は把握していないんですが、それぐらい作曲してると、メロディとかアレンジってどうしても似通ってくるんですよね。
みなさんも好きなアーティストを聞いてるとき、「あ、この人はこういうメロディを書くんだな」とか「こういうアレンジがこの人は多いよね」と思う時があるでしょう。
ああいうのは「手癖」と言って、自然に出てきてしまうものなんです。僕はその手癖から一度離れたいと前から思っていて。
そこで気づいたのが「リファレンスを立てる」ことでした。
実は「リファレンスを立てた方が新しい斬新なアイディアが思いつく」んです。
僕が立てたリファレンスは坂本真綾さんの「レプリカ」という曲でした。
元々この曲は知っていて、今回の作品のきっかけも「この曲のような豪華なストリングスアレンジをしたい!」という動機からでした。
「レプリカ」のmp3ファイルを購入して、DAWに貼り付けていつでも聞けるようにして、「この曲を超えるような曲を作ろう!」という意気込みで作曲に取り掛かりました。
すると普段、自分では思いつかないようなメロディが思いついたんです。
これは自分の中のハードルが一個あがった感覚というか、「この曲を超えるにはこのメロディではダメだ!」と何度もやり直すうちに新しいアイディアが思いついたんです。
人って「自由になんでもやっていいですよ」って言われると途端になにもできなくなるんですよ。
逆にこうやってお手本があると「自分だったらこうするな」とか「こういうアイディアを入れてもいいんじゃないか」とどんどん発想が豊かになっていきます。
リファレンスが一つの刺激になってアイディアが思いつくということを肌で感じた瞬間でした。
真綾さんの「レプリカ」はストリングスがとにかく美しく、さらにそこにゴリゴリに歪ませたベース、疾走感と躍動感のあるドラムが加わって、「強靭なビート+ストリングス」という新しい方程式を完成させているなと思いました。
でも、大事なのはここからなんです。
「そこに自分だったら何を加えるか?」
リファレンスを参考にしながらもそれを自分の曲にするためにはやはり何かを足さなければならない。
僕にとってそれは「轟音のギター」でした。
イントロを作っていたときに、「レプリカ」ではバイオリンがずっと最高音を鳴らし続けていて、これが非常にスリリングで良かったのですが(YouTubeには載ってないので興味がある人はサブスクで聞いて下さい)、僕が作ったストリングスのフレーズがそんなに音が高くなかったんです。
じゃあ、どうしよう?って思ったときに、僕はギタリストなのでギターで空間を埋めよう!と思いました。そうしてできたのが「Find me」のイントロ。ディストーションギターにストリングスという組み合わせでした。
結果、この曲は「ストリングス×ギターロック」という今までにない組み合わせを完成させることができたと思っています。
それもこれも坂本真綾さんのおかげ。制作中は何度も「レプリカ」を聞いていたのでいつもその澄んだ歌声に癒やされていました。感謝。
僕は、基本的にメロディを書く→コードを付ける→アレンジと進めていって一番最後に作詞をします。
で、僕にとって一番難しい作業が作詞で。
自分は特に世の中になにか訴えたいことがあるわけでもないので、題材で悩むし、そもそも作詞って当たり前ですけど文字数が決まっているんですよ。
僕は小説を書いたり、文章も書くんですが、普通の執筆って基本的に足し算なんですね。一文ってどれだけ長くしても怒られないし、どんどん修飾語を足して詩的な表現に持っていくことができます。
だけど、作詞は文字数が決まっているので、足し算というか引き算の美学なんですね。どれだけ少ない文字数で感情を伝えられるか?なんです。
そして、恐ろしい問題がもう一つあってイントネーションです。日本語のイントネーションってピッチなんです。
「君」って発音するときって「き→み↑」でみが上がるじゃないですか。
これが「き→み↓」ってなってみが下がると卵の黄身になってしまうんです。
こうやって日本語ってイントネーションによって言葉の意味が変わってしまう言語なんです。
で、この言葉のイントネーションと、メロディのピッチが合わないと変な感じになるんです。ハマりが悪いというか一聴しただけでは「え?今なんて言ったの?」みたいな違和感が生じます。
一つのメロディが合ったとして、メロディ的に4文字で区切れてほしい、ピッチはこうだからそれに合う単語を探していくと……、とやっていくともうほとんど単語パズルみたいな状態になります。
その中で自分の言いたいことを伝えるとなると、非常に難易度が上がることはみなさんもお察しのとおりです。
この曲も特にテーマが決まっていたわけではないんですが、一番のAメロから言葉をはめていって、その流れでラブソングになりました。
僕、ほとんどラブソングって聞かないんです。興味がないので。でも、最近、ラブソングを書く比率が上がっています。
それはやはり日本人にとって「ラブソング」というものがある種、普遍的なテーマであり、誰にでも伝わる共通言語だからです。
J-POPにおいてラブソングの名曲は星の数ほどあります。洋楽には実はそれほどラブソングは多くないと思います。失恋ソングのほうが多い気がします。それだけ、J-POP独自の文化なんだと思います、ラブソングって。
で、僕は作詞を終えて、本当に一番最後にタイトルを決めます。
2番のサビに「君だけが僕を見つけてくれた」という歌詞があったので、もうこれは「Find me」でしょう、と。
僕の推しの花譜ちゃんの所属事務所のオフィシャルストアの名前が「Find me Store」なんですが、この名前、すごくいいなと思っていて。そこから取りました。
これにはもちろん、「俺を見つけてくれ!」という意味も込められています。「Please,find me!」にしたかったくらいです。さすがに「Please」は消しましたが。
けっこうミックス・マスタリングをこだわりましたね。リファレンスの「レプリカ」のスネアがめちゃくちゃスコーンと抜けてくる感じがあったので、それを再現しようと考え抜いたり。
マスタリングの時も相当、悩んでミックスに戻って書き出し直して……、みたいなことを永遠と繰り返していました。
あと、動画編集。これ、イラストはAI生成なんですが、テキストアニメーションは自分でやっています。AviUtlというフリーソフトを使っているんですが、これが万能で。有料ソフトよりもテキストアニメーションはすぐれているのでAviUtlを使っています。
実は最近、AviUtl2が公開されて話題になって、僕もここ最近は2を使ってたんですが、自分の使いたいスクリプトが2ではまだ動かず、けっきょく1に戻ってきました。
けっこうアニメーションは細かく制御しています。
そんなこんなでとにかく細かく丁寧に作っておりますので、ぜひ、聞いていただけると幸いです!
