8位は星野源!
このアルバム「Gen」はコロナ禍のステイホーム期間に制作された楽曲が多く収録されています。
2018年に「Pop Virus」という最高傑作を生み出し、J-POPに新たな風を生み出した星野源。思えば、このあたりからJ-POPにシンセが多用されるようになり、ベーシストがベースの代わりにMini Moogを弾くというのが一般化した気がします。それほど、「Pop Virus」という作品は偉大であり、J-POPの定義を根本から変えました。
その後、東京ドームでのライブを終えた星野源は、一種の”燃え尽き症候群”に陥ったといいます。
やりたいことはすべてやった、これからどういう音楽をクリエイトしていけばいいのかわからなくなったとインタビューで語っていました。
その後、2019年10月に友人でもあるバンド、Superorganismをフューチャリングに迎え、「Same Thing EP」をリリースします。共同プロデューサーに気鋭のR&BクリエイターのTom Mischを迎え、全編英語詞にも初挑戦。海外進出を視野に入れた制作となりました。
しかし、ここであのコロナ禍がやってきます。2020年はデビュー10周年の節目だったのですが、記念ライブはもちろん、無観客の配信。海外進出の道も途絶えてしまいます。
ですが、ここで諦める星野源ではありません。
今まで挑戦したことのなかったDTMに初挑戦。2020年6月にはDTMで制作した初の楽曲「折り合い」をリリースします。
そこから自宅のスタジオを大幅に改装し、ミュージシャンを呼んで録音できる環境を整備。テレビでスタジオを見たことがあるのですが、自分の好きな機材を集めたまるで要塞のようなスタジオでした。
この「Gen」というアルバムは今までのように弾き語りのデモを持っていって、馴染みのプレイヤーとともに、ああでもないこうでもないとスタジオで作ったアルバムではありません。
編曲や打ち込みまで自分で行い、生音が必要な部分はミュージシャンを自宅に呼んでそこで録音。
ここまでキャリアのあるミュージシャンが完全宅録で制作を行うというのも珍しいと思います。
今までDTMに触れてこなかったわけですから制作は難航しそうなものではあるのですが、このアルバムは星野源のもっとパーソナルな部分が現れた素晴らしいアルバムになっています。
打ち込みのシンセと生音がいい塩梅で交わり、2025年にふさわしい新しい音像に仕上がっていると思います。
自宅スタジオに一人で篭って作ったからこそ、より自分の内面にフォーカスされ、「自分にとっての音楽とはなにか?」「なぜ、自分は音楽を作るのか?」そこからさらに掘り下げていって「なぜ、自分は生きるのか?」という人間にとっての根源的な問いに対して向き合った曲がアルバム最後の曲「Eureka」です。
明ける夜空 ここで話そう
”今”は過去と未来の先にあるんだ
君はうまくいくだろう
無責任な言葉でも
わからないもので
窓から陽が射して滲む
季節が風と踊り纏い詩を歌う
くだらないだろ
妙に綺麗で 泥臭い
わからない中で
”自分が生きる理由”なんてわからない、それでも毎日は奇跡のように美しくて、きっとこれからも僕は、僕達は”うまくいく”。
星野源の初期の曲の中に「くだらないの中に」という曲があります。
ここで再び”くだらない”という言葉が使われていることに、ある種の必然性を感じます。
一周回って戻ってきたけれど、そこには一周分の人生の経験値がある。
キャリア15年目にしての一つの解答がここに表れています。
また、このアルバムには海外のアーティストが多くフューチャーされています。
これらの音源はすべてデータのやり取りで行われたようです。
コロナ禍でよかったことはこうしたデータでのやり取りができるようになって、より簡単に海外のアーティストとコラボできるようになったこと。
星野源が作ったデモにアーティストが音を入れ、キャッチボールのように曲を制作していく。
叶わなかった海外進出のチャンスを別の形で実現することになりました。
前作、「Pop Virus」が後進のアーティストに多大なる影響を与えたように、このアルバムも新たなアーティストのインスピレーション源となってJ-POPはまた進化を遂げていくでしょう。
常に最高のポップスを更新し続けるポップスター星野源に敬意を込めて。
