日本のシンガーソングライターと言えばと聞かれたら真っ先に「あいみょん!」と答える。シンガーソングライターは数知れどその代表格は今、間違いなくあいみょんだろう。
なぜ、あいみょんの歌はここまで国民に支持されるのだろうか? それは彼女こそが正当なJ-POPの継承者だからである。
J-POPとは特殊な音楽である。J-POPとしか考えられない曲が存在する中で、明らかにJ-POPではない音楽も存在する。それくらい、J-POPとはトラディショナルな存在ということだ。数々の不文律の掟があって、それをひとつでも破るとそれはもうJ-POPではなくなってしまう、言い訳の通用しない世界なのだ。
J-POPを作るのは実はとても難しいのである。いきものがかりはある種、戦略的に歌謡曲的なエッセンスをいれることでスターダムに押しあがった。
あいみょんはそういった戦略の部分は全くない。純度100%のJ-POP。彼女の発する音全てがJ-POPになるのではないかと思うくらい彼女の心の中にはJ-POPのエッセンスが染みわたっている。
彼女の持ち曲は現在400曲程度だそうだ。ほとんど日常的に曲を作っていて、そこからカップリングやアルバム曲が選出される。しかも、この「裸の心」はそのストックから出したものだというのだ! しかも、シングル曲として出せるストックはまだまだたくさんあると言う! まだ日の目を見てない名曲を、彼女は最適なタイミングで送り出す。
思えば、この「裸の心」もそうだった。コロナ禍という未曽有の災禍の中でリリースが延期され、ドラマも放送延期に。しかし、ステイホームの中、あいみょん自身が作ったショートバージョンのMVが公開され、そのハンドメイド感と、この曲の包み込むような優しさ。「今の自分のままでもいいんだよ、焦らなくても、不安にならなくても大丈夫」と諭されているみたいだった。
あいみょんはJ-POPシンガーであるが、そのくくりの中でもひときわトレンドにうるさい。旧来の、あまりに直球なメロディにのるアレンジが現代的だからこそ、様々な層にアプローチできている。たとえば、僕のような普段はまったくJ-POPなんて聴かない層にまで響く。今の音楽のトレンドは70年代ソウルから80年代R&B、シティ・ポップだ。このアルバムのアレンジはすべて70年代から80年代にかけての音楽のリバイバルでできている。だから、大人でもすっと入っていけるし、若者はそのリバイバルの真っただ中にいるので「全く聞いたことのない新しいサウンド」として新鮮な気持ちで聴ける。
こうやって分析してみるとあいみょんは戦略的に見えそうなものだが、本人がしゃべっているのを見るとまったくそんなことはない。自然体の20代の女の子だ。そこがすごいというか、僕は”天才”という言葉が嫌いだが、(使った時点でラべリングしてしまうから)あいみょんこそが米津玄師よりもナチュラルに天才だと僕は思う。