2位はKing Gnu!
これぞ新時代のロックアルバム
このアルバムは曲と曲の間にインタールード的にインストが収録されており、アルバムを通しで聞くとより感動を味わえる一作となっています。
サブスク以降、アルバムの価値というのはどんどん下がっていきました。どのアーティストも既発曲の寄せ集め、ベストアルバム的なアルバムしか出していない中で、ここまでアルバムというパッケージにこだわったアーティストは他にいないでしょう。
常田さん自身も言っていましたが、このアルバムの制作は過酷で、中でもこのインタールードを常田さん一人で制作しなければならず、数も膨大だったため、アルバムが出来上がってからはじめて最初から通りで聞いたそうです。
まさに綱渡りな制作だったわけですが、通しで聞いてみて「あの綱渡りは成功したんだな」と感じたそうです。
このアルバムには”ロック”という概念を破壊するような革新的な曲が収められています。
中でも異彩を放つのが呪術廻戦・渋谷事変編OP主題歌「SPECIALZ」です。
この曲はギターこそ入っているものの、ベースはシンセ、ドラムも打ち込み。それに何と言ってもサンプリングの多さ。ほとんどヒップホップのトラックとなっています。
しかし、それでも「これはロックだ」と感じるのは、演奏の熱量に由来するものだと思います。
常田&井口のダブルボーカルも気合が入っていますし、うなるようなギター、そしてたとえシンセだとしてもはっきりと感じるベースのグルーヴ、打ち込みだとしてもそのはみ出し感がロックを感じるドラム。
要するにメンバー一人ひとりがロックのマインドを持って鳴らしているからこの曲はロックなんです。
本来、ロックとはジャンルでなく、生き様そのものなのだということを改めて思い知らされます。
さらに注目したいのは既発曲ながら異彩を放つ「泡」。
発表当時から話題となっていましたが、アルバムバージョンとして再録されました。
このほぼ前編打ち込み、常田さんのボコーダー、ほぼEDMと言ってもいいトラック。
しかし、ここでもやはりロックを感じてしまいます。
僕が思い起こしたのはRadioheadのアルバム「Kid A」。このアルバムはロックバンドであったRadioheadがロックの概念を覆すために打ち出した、まるでアンビエントのような壮大なサウンドスケープのアルバムです。
おそらく常田さんも「Kid A」を目標に「泡」を作ったのでしょう。シンセ主体の音作りが似通っています。
「Kid A」はロックを拡大解釈し、新たな”オルタナティブロック”というジャンルを作り出しました。
常田さんもRadioheadのように新たなロックを生み出したかったのではないでしょうか。
そのような気概が音からにじみ出ています。
このアルバムはロックの常識を覆し、新たなロックを生み出すために作られたと言って過言ではないでしょう。でなければ、ここまでロックというジャンルを無視した音使いをするはずはありません。
ボーカル、ギター、ベース、ドラムスという編成を解体し、新たにロックを再定義するためのアルバム。だからこそ、このアルバムは素晴らしいのです。
間違いなく10年後振り返ったとき、このアルバムが日本のロックの特異点だったと言えるような最高のロックアルバムです。