The 1975は今、一番イケてるUKロックバンドだ。
しかし、このアルバムを聴いて彼らをロックバンドだという人はいないだろう。彼らはそもそもバンドというステータスに一切こだわりを待たず、とにかくポップでキャッチーでトレンドな音楽を創るバンドだった。
このアルバムは2020年の「Kid A」と呼ばれている。「Kid A」とはレディヘッドが2000年に出したエレクトリックアルバムで、ほぼすべてシンセ、ギターは一切出てこないアンビエントな音像。これをロックバンドがやってしまうということが、当時はとにかく斬新で衝撃的だった。
The 1975はその革命を2020年、20年後の今としてもう一度結実させて見せたのである。その音像はとにかく優しく、人の心を包み込むかのよう。
特筆すべきは、オープニングの一曲目「The 1975」に環境活動家のグレタ・トゥーンベリの演説が引用されていることだ。
彼らはポップバンドだが、こうした政治的発言をすることには躊躇がなかった、というか、ごく自然な流れでこのオファーは実現したらしい。この時代(このアルバムは2019年までにほとんど完成されていたので、コロナは関係ない)にふさわしいポップソングとして、環境活動というカルチャーを引用して見せたのである。
前に、音楽とはカルチャーである、と明言した。彼らは、彼女の演説を通してそれを体現した。また、LGBTへの言及も歌詞には含まれる。その時代のカルチャーそのものを音楽にしてパッケージングする、これが彼らのアティチュードなのだ。
まず、驚かされるのは1時間21分というCD録音限界ギリギリの長さと22曲にも及ぶ長大なアルバム。ここにも僕はボーカル、マシュー・ヒーリーの策略が見て取れると思っている。まず、このアルバムを最初から最後までみっちり聴く人は、忙しい現代人にとっては難しいことだろう。当然、シャッフルやお気に入りだけを自分のプレイリストに入れて聴くことになる。
そして、ここが重要なのだが、このアルバム、インスト曲が非常に多い。全体的なクオリティは常に明るく前向きなポップソングでありながらも、途中に90年代テクノかという曲が混ざっている。つまり、このアルバムには一貫性というものが欠如している。とにかくいい曲だけ集めたぜ!みたいな感じを受ける。
何が言いたいか。つまり、このアルバムは最初からシャッフルで聴かれること、プレイリストで聴かれることを想定されていたのではないかということ。アルバムとして最初から最後に向かうダイナミクスはなく、とにかくどこを切り取ってもおいしい、だから、どんどんプレイリストに曲が入る、再生される。シャッフルで聴けば、インストがかかってきて、「これ勉強中にいいかも!」と思ってまたプレイリストに入る。
そういった現代の音楽の聴かれ方にマッチしたまさしく2020年現代の音楽なのである。
ちなみに、確実にグラミーにはノミネートされるはずなので今のうち聴いておいて損はない。