米津玄師の新曲「POP SONG」のMVが公開され、大きな話題を呼んでいます!
男なのか女なのかわからない、奇抜なキャラクターにみなさん、驚かれたと思います。
今回はこのMVから米津玄師が放ったメッセージと、この楽曲の革新性について解説したいともいます!
奇抜なキャラクターの元ネタはデヴィッド・ボウイのジギースターダスト
この奇妙な衣装について、視聴者のコメントでは「デスノートの死神っぽい」とか言ってましたけど、全然違います!
ちゃんと元ネタがあるんです!
この動画を見てください!
これはデヴィッド・ボウイという70年代・80年代に一時代を築き上げた伝説のロックスターの「Ziggy Stardust」という曲のライブ映像です。
画質が荒くてわかりづらいですが、たぶんこれ、ミニスカートですよね。
そして、煽情的で女性的な動き、足をなまめかしく魅せるような動き。
これ、米津玄師もやってますよね。
デヴィッド・ボウイはアルバム「ジギースターダスト」を一つのコンセプトアルバムとして制作しました。
5年後に資源が枯渇し、人類滅亡の危機に追いやられていた地球に舞い降りた、バイセクシャルの救世主、これがジギースターダストです。
このアルバムのストーリーは地球に降り立ったジギーがロックスターとなり、やがて没落していくまでのドキュメントになっています。
実はボウイは自身もバイセクシャルであることを公言しています。
また、ボウイはジギーというロックスターに成り変わるのではなく、自身とジギーを重ねて投影し、やがてだんだんと自分がボウイなのかジギーなのかわからなくなっていった、という逸話もあります。
彼はライブの時は完全にジギーとしてステージに立ち、この奇抜なメイクと衣装で女性ファンを歓喜させ、やがてボウイ自身もロックスターとしての地位を確立していく、という本当にジギーなのかボウイなのか、ファンから見てもわからない状態だったそうです。
ちなみに、1973年7月3日をもってボウイはジギーを否定し、ジギーの完全引退を宣言し、再び、「デヴィッド・ボウイ」としての活動に入っていきます。
米津玄師のMVでのパフォーマンスは、まさにこの「ジギー型」の、キャラクターに憑依して、自身のアイデンティティを捨て、成り変わっていると言えます。
そして、これがどうしてすごいのか?
今、世界ではLGBTQ問題というものがあります。
LGBTQとはセクシャルマイノリティのことで、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クイット(それ以外)の頭文字をとったものです。
異性愛者ではなく、同性愛者だったり、あるいは心は女でも体は男の人など、世界にはさまざまな愛の形があります。
しかし、一般的に、これらのセクシャルマイノリティの人たちは少数派であるがゆえに差別されてきました。
これを大きな問題ととらえ、LGBTQの差別撤廃の動きが2010年ごろから活発になりました。
有名人ではレディーガガがバイセクシャルであることを公言していますし、宇多田ヒカルさんはノンバイナリーという、自身が女性でも男性でもない、どれにも当てはまらない性別である、と言っています。
ほかにも、映画になったクイーンのフレディー・マーキュリーもバイセクシャルですし、こちらも映画になったエルトン・ジョンはゲイであることを公表しています。
海外の音楽界ではLGBTQを公言することは、ごく普通のことでした。しかし、日本ではいまだに理解がされにくい問題だと思います。
まず、第一に身近にそういう人がいない。
これは明らかに明言していないだけで、実際はLGBTQに該当する人はたくさんいると思われます。
第二に、公言した時のリスクがあまりにも大きい。
日本は島国でいまだに村社会を続けています。ひとたび自分がLGBTQであると知られれば、すぐにSNSで拡散され、批判の目にさらされるでしょう。
また、政治家からも「LGBTQは子供を産まないから生産性がない」などと発言して、炎上するというなんとも情けない現状。
だから、この米津玄師のファッションとユニセックス的なキャラクターには、これからLGBTQ問題に日本がきちんと取り組まない限り、日本のカルチャーは死んでいく、という明確なメッセージがあるのです。
だからこそ、この曲の曲名は「POP SONG」なんだと思います。
彼にとって、ポップとは平等であること、普遍的であることなんだと思います。LGBTQが普遍性を獲得するように、この曲にわざと「POP」という言葉を入れた。
これは現代のカリスマだからこそできる神業と言えます。
「POP SONG」のジャンルは100年前のディキシーランド・ジャズ
さて、この「POP SONG」、ジャンルはなにに入ると思いますか?
米津玄師がやっている以上、J-POPで問題ないと思いますが、それではこの奇抜なサウンドは説明できない。
実はこれにも元ネタがあるんです。
これを聞いてください。
これはディキシーランドジャズという、1920年代~30年代に流行したジャンルです。
どうですか?この金管の「プオーン」っていう音だったり、騒がしいリズムが「POP SONG」にそっくりだと思いませんか?
このディキシーランドジャズ、ウォルトディズニーのミッキーマウスシリーズによく使われていました。あの白黒の奴です。
その100年前の音楽を2022年にやる…、本当に米津玄師は天才だと思います。
ちゃんと現代風にビートが構築されなおされ、それでいてかつ、高速で変化するにぎやかさは生かす。
素晴らしいアート作品だなと僕は思います。
近年の米津玄師作品は、こういったコラージュがよく用いられます。
全く違う別のジャンルの音楽をごちゃまぜにして、新しい音楽を作る。
彼のアート性というのは楽曲のポップスセンスではなく、コラージュセンスにこそあると思います。
そして、なんとこの曲はPS5のタイアップ曲だという…。
だから、コントローラーが出てくるんですね。
でも、タイアップでこんな曲、普通、作りますかね…。
そこも含めて、やはり米津玄師は現代日本、いや、世界に誇るべき生粋のアーティストであることがここに証明されました。