以前このブログでも紹介した、藤井風の1stアルバムが発売された。
結論から言うと、このアルバムはJ-POPを革新させるパワーと美しさを兼ね備えている。彼の歌は間違いなく、R&Bだ。日本でもR&Bは古くは宇多田ヒカルからJ-POPの一形態として機能してきたが、それらの多くはJ-POPにR&Bのスパイスをちょこっと入れましたみたいな、なんちゃってR&Bだった。宇多田ヒカルと聞いて、彼女はR&Bシンガーとは言わないだろう。しかし、彼の作る曲はブラックミュージックに精通した者だけがつくれる本物のR&Bだ。また、彼はピアニストでもある。それもどちらかというとジャズ系のピアニストだ。だから、コードは単純なトライアドではなく、とにかくやったらめったらテンションを使う。これがよりその曲のムーディーさ、ジャズっぽさ、つまりブラックミュージック的アプローチになっているのである。メロディも実に洋楽的で、J-POPにありがちなメロディというのは一切ない。むしろ洋楽のメロディに無理やり日本語を入れてるような感じで、その違和感が逆に新しい。彼の歌は高音のファルセットが特徴的で、優しく、情緒豊かに楽曲の表情を彩る。そして微妙にスイングする。リズムピッタリではなく、ジャズのように少し後ろにずれる。これがブラックミュージック的に聞こえる要因で、普通の人のリズム感ではできないことを、彼は意識的にか無意識的に行っているのである。
まさに本物のR&Bなわけだ。
しかし、今、「藤井風」というアーティストはJ-POPとして受け入れられつつある。そこがおもしろいところだ。ポップスというのは、要するに流行歌なわけだが、流行というのは流動的だからこそ、その時代その時代のポップスというものが存在した。しかし、現在、ポップスの定義というのはほぼ存在しない。なぜか。結局、我々人類はほぼすべてのジャンルを作りつくしてしまい、これ以上新たな音楽というジャンルが生まれる可能性が希薄だからだ。もう2000年代からは流行のレイドバックが始まっている。これは新たなものを作るより、昔あったジャンルを現代的に復刻したほうが経済的だからだろう。流行歌としてはそのほうが都合がいい。世界的に人気のあるThe 1975はエレクトロを主体的としながらもゴスペルやロック、パンク、ヒップホップとジャンルの定義ができないアルバムを作っている。そして、藤井風の中にもそのジャンルの多様性は認められる。
「キリがないから」という曲はシンセのシーケンス音が特徴的な曲で、90年代アシッドテクノ的な雰囲気がある。
「さよならべいべ」はアルバムの中では珍しくギターロックナンバーで、ピアニストがロックをやってしまうという大胆なアレンジに驚かされる。
彼のR&B的な部分も昨今のジャンルレス的な価値観から見ればJ-POPとして受け入れられてしまう。藤井風がJ-POPシンガーになることで彼はJ-POPを内部から改革していくだろう。