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私的2019年アルバムトップ10-[5位]ビリー・アイリッシュ-WHEN WE ALL FALL ASLEEP,WHERE DO WE GO?

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さて、このランキング唯一の洋楽である。

知っている人はもう知っている、弱冠17歳の現代のカリスマ、ビリー・アイリッシュである。

先日、グラミーのノミネートが発表されたが、ビリーは主要4部門にノミネート、さらにこれは史上最年少だという。

グラミーの歌姫といえばテイラー・スイフトアリアナ・グランデなどが挙げられるが、ビリーをそこいらの安物のポップ歌手と一緒にされては困る。まずは名曲「bad guy」で腰を抜かすがいい。


Billie Eilish – bad guy (Official Audio)

僕もこれをはじめて聴いた時には腰を抜かした。だってほとんどベースとボーカルしかなっていない。コード楽器も出てこない。きわめてミニマルな構成なのにロック的な迫力も、ヒップホップ的な軽妙さも兼ね備えている。

ビリー・アイリッシュは語ることが多い。まず、プロデューサーは実兄であるフィネアスであること、プロのレコーディングスタジオではなく、自宅のフィネアスの部屋でこのアルバムをすべて作ってしまったこと。つまり、根っからのDTMerなのだ。こういうプロデューサーをベッドルームプロデューサーというが、かつてここまで成功した者がいたろうか。まさしく、音楽界に核弾頭をぶち込んだのがビリー・アイリッシュという17歳の少女なのだ。

フィネアスとともにインタビューを受けた時、「作曲のプライオリティはどうなってるの?」と聞かれると迷わず「フィフティ:フィフティ」と答えた。基本的にフィネアスがトラックを作るのだが、実はフィネアスはもともとこのようなダークな作品を作るタイプではない。そこには明らかにビリーのアイデンティティが注ぎ込まれている。ビリーが面白いと思う音を探して、フィネアスがトラックを作り、ビリーが歌う。本当に仲良しな兄妹なのだ。

また、サウンドプロダクションとしてもこの作品は画期的だ。まず、地を這うような低音が蛇のように襲い掛かってくる。どうやったらこんな音が出せるのか皆目見当もつかない。また、ビリーの歌声は基本的にささやき声なのだ。これはライブでも確認してほしいのだが、本当にぼそぼそとしか歌わない。


Billie Eilish – bad guy (Live From Jimmy Kimmel Live!/2019)

これは私見だが、だからこそ音を間引いたのではないか。ここでJ-POPみたいに音を詰め込んだら彼女の声はつぶされてしまう。彼女の声は明らかにハイ寄りだ。だから、徹底的にローを出して、帯域がぶつからないようにする。これが第一原則にあるように思う。つまり、サウンドを見越してアレンジしている、ということだ。

これは日本ではあまりないことで、ミックスと作曲が隔てられていない環境だからこそできた所業でもある。

断言しよう。現代のカリスマはグレタ・トゥーンベリさんとビリー・アイリッシュだ。若者たちの中でふたりはアイコンになりつつある。そして二人ともミレニアム世代、なんと9.11以降に生まれた人たちなのだ。彼女たちは未来を憂いている。ビリーは現実が悪夢でしかないと叫び、変革を求める。そして、事実上、形骸化した音楽産業を一度リセットしてのけた。彼女たちは今後どのように歩むのだろう。正直、心配だ。新曲でもビリーは今の状況の変化に戸惑っていた。当たり前だ。売れない俳優一家の娘だった女の子が頂点に登りつめて黄色い悲鳴に日常を脅かされているのだから。

彼女は彼女のまま自分を貫いていってほしいと思う。そして、グレタさんとともに、世界の変革を成し遂げてほしい。その先にしか、僕たちの、地球の未来はない。