20世紀最大の音楽の発見はブルースであったと言われる。今まで300年間にわたって培われてきた西洋音楽理論を否定する形でブルースは現れ、結果的に西洋と黒人の混血としてのロックミュージック、ポップミュージックが生まれた。基本的に現代の音楽は西洋音楽理論をもとにしているが、ビートはブルースを原点としている。白人の音楽の中に黒人の血が一滴流れたことによってすべての音楽が生まれたのだ。
では、ブルースの革新性とは何か?
西洋音楽では強拍が1拍、3拍に存在する。つまり、「タン、ウン、タン、ウン」である。これはもちろん現代の耳をもってすると違和感があるだろう。普通は「ウン、タン、ウン、タン」である。しかし、基本的にクラシックは1拍、3拍が強拍だ。これはなぜか?西洋音楽を創り出した欧州の人々が基本的に農耕民族だったからだ。
農耕民族は一番先に鍬や犂を下ろすので必然的に「ヤー、エイ、ヤー、エイ」となり、1拍、3拍が強拍になる。
ではブルースはどうか?
20世紀初頭、現代と同じ2拍、4拍でビートをとれるのは黒人しかいなかった。そしてこのビートはどこで生まれたかというと炭鉱で生まれた。1776年にアメリカが独立するが、そのころ黒人は奴隷として連れてこられた人々だった。アフリカから無理やり連れ込まれた人もいるし、インディアンも奴隷にされた。そして、黒人たちが何をやらされるかと言えば炭鉱に行かされてひたすら採掘をするのだ。そしてこのとき、ブルースが生まれた。ブルースは労働賛歌である。彼ら黒人が調子を合わせる掛け声として歌を歌い始めた。これがブルースの発祥と言われる。そして、彼らは農耕民族と違い、つるはしという重いものを振り下ろさなければいけないので、「エイ、ヤー、エイ、ヤー」と1拍でつるはしを持ち上げ、2拍で振り下ろすという2拍4拍の強拍となった。ここで拍節が逆転するのである。また、この2拍4拍のビートは民族音楽にもよく見られ、黒人は生まれながらにして2拍4拍のビートを身につけていたという意見もある。
そして、このブルースが広まっていくのが20世紀初頭なのだ。このころから簡易的な録音装置が生まれ、黒人のパブにこっそり忍び込んだ白人の少年が録音した初期ブルースの音源がSPとして残っていたりする。
そして白人は自分たちと全く違う拍節感覚を持ったブルースに驚愕し、それを取り込もうとする。しかし、これがなかなか難しかった。そもそもビートが逆転しているので演奏できない。そんなこんなで初期は2拍4拍のビートがあまり出てこないビックバンドジャズが大衆音楽として広まったようだ。これが1930年代ごろでSPとして残っている。
本格的に白人が2拍4拍のビートに取り組むようになるのはロックンロールが登場してからだ。そして、かの有名なエルヴィス・プレスリーが初めて白人でロックンロールを鳴らした。しかし、50年代になってもビートは上達しなかったらしく、プレスリーのリズム感覚は完璧なのに、バックで演奏しているBBCラジオのバンドがへたくそでビートがよれよれなのだ。なにせ、このバンド、一度休拍を挟むともう一度「ワンツースリー」とカウントしなおさないと演奏できないのだ。今では考えられないことだが当時の白人の拍節感覚ではそんなものだった。しかし、黒人は何もせずとも頭でビートが鳴り続けているので問題ない。ジャズのドラマーでほとんど白人がいないのはこのためだ。黒人でなければそもそもドラムをたたけなかったのだ。
そして、異常事態が起こる。63年のビートルズのデビューだ。ビートルズはプレスリーをテレビで見て感銘を受け、自分たちもロックンロールをやろうと奮起し、ロックの発祥の地、アメリカではなく、イギリスから伝説のロックンロールバンドが誕生することになる。しかし、実は初期のリンゴのドラムはけっこう下手で、後期になると俄然うまくなるのだが、初期のころはけっこうビートがよれている。それだけ白人がロックをやることは難しかった。しかし、ビートルズは果敢にもそれに挑み、そして世界的大成功を生み出した。
そして、ビートルズがすべての音楽の方式を変えてしまった。つまり、ブルースから生まれた2拍4拍のビートがロックンロールになり、プレスリーになり、ビートルズになって、はじめて世界に浸透したのだ。これ以降、すべての曲は2拍4拍が基本となる。
ちなみに、ビートルズの影響はあまりに大きく、以降、出てくるバンドはすべてイギリスだ。レッドツェッペリンもキングクリムゾンもセックスピストルズもクイーンもみんなイギリス。アメリカはロック発祥の地なのに泡を食わされるはめになる。ようやくUKとUSの溝が埋まり始めるのが80年代になってマイケル・ジャクソンが出てきてからだ。90年代になってやっとUKとUSは対等に聴かれるようになる。それまではUKびいきがずっと続いたのだ。
黒人はずっと虐げられてきた人々だ。しかし、彼らは暴力に訴えようとしない。音楽で革命を起こす。そして、その革命は今もなお息づいているのだ。彼らの魂は永遠に潰えない。