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緑黄色社会「LITMUS」で見せた人の傷に寄り添うポップス

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8月25日に緑黄色社会のニューシングル「LITMUS」がリリースされました。

この曲は現在放送中のドラマ「緊急取調室」の主題歌。

LITMUSとはもちろん、理科の実験で使った、酸性、アルカリ性を検知するリトマス試験紙のことです。

この表現が実にリョクシャカっぽくて、ポップで、詩的。

これまで流した涙はどれも

リトマスの紙にかざせないまま

わたしはそれでもあなたのそばにいてしまう

嘘はついてない

本当にも触れない

あなたにだけ言えない秘密がある

緑黄色社会 LITMUS 歌詞 – 歌ネット (uta-net.com)

自分が胸に秘めている秘密、暗闇、黒い感情、それをさらけ出すことはできないまま、あなたのそばにいたいと願ってしまう。それは傲慢なのかもしれないけれど、ただひたすらに純粋な願いなんだ、そういう曲だと思います。

ドラマ「緊急取調室」はミステリー的にはホワイダニット(Why done it? どうして殺人を犯したのか?)をめぐるサスペンスです。

犯人は重要な情報、あるいは真実を隠していて、それを主人公が所属する取り調べチームが1対1で対峙し、真実を明らかにする、というミステリー的にはかなり特殊な、どちらかというと会話劇の要素が多いドラマです。

要するに、この「誰かを守るために、あるいは自分を守るために、真実を語らない」というテーマをくみ取り、それを「LITMUS」にたとえた。

こんなに素晴らしい比喩はついぞお目にかかったことがありません。

そして、ドラマ主題歌でありながらも、「自分の弱さ」という非常に普遍的な、それぞれの秘密に歌詞では意味を変え、だからこそ、この曲は非常にポップで誰の心にも刺さる。

ボーカルの長屋晴子さんがロッキング・オン・ジャパン9月号のソロインタビューではこう語っています。

よく凛としてるとか、しっかりしてるねとか、強そうって思われることが多いんですけど、たぶん見た目のイメージで(笑)。実際はその真逆にいるんですよね。

(中略)

自分が好きな音楽を見返したときに、だいたいネガティブな歌詞のほうが惹かれるんです。ポジティブな歌詞ももちろん素敵で大好きなんですけど、真底から這い上がろうとしてるような、人のマイナスな部分に寄り添える曲のほうが長く響くというか、しかも記憶に残るなということに気づいて。

自分はそういう曲に助けられてきたなっていうのも思い返して。

じゃあ、自分で書くのであれば、あんまり普段は自分のことを人に話せないので、歌詞の中では素直でいられたらいいかなっていうところから、ナヨナヨした歌詞を書くようになりましたね(笑)

結果として、自分の曲で同じように前向きになってもらえたらとか、救われる人がいたらいいな、なんです。

なんていうんですかね、自分のために曲を書いています。

曲を書くときはリスナーさんの顔が思い浮かぶことはあまりないかもしれない。

ロッキング・オン・ジャパン2021年9月号p166~p167

確かに、長屋さんはそのきりっとした顔立ちと歌声のパワフルさから、強い人だというイメージがあります。

THE FIRST TAKEではアカペラで歌ってリスナーを驚愕させてましたね。

しかし、今年1月の新曲「結証」では、「Mela!」の印象とは真逆の、泣ける師玉のバラードを作り、世間の印象を一転させました。

そして、今作、「LITMUS」では素の自分を明かしたいけれど、それが怖くてできない、その人の弱さをテーマに歌っています。

リョクシャカの曲には「強さ」と「弱さ」が混在しています。

「Mela!」も、弱い自分を肯定するために勇気を振り絞って踏み出す、というテーマがありますよね。

要するに、リョクシャカが描き出したいのは「人間臭さ」。あるいは、「血の通った音楽」。

人肌のぬくもりがあって、かすかに鼓動の音が聞こえて、それでいて、前の見えない暗闇もある。

強い自分と弱い自分が混在していて、だけど、相互に補完しあっている。

弱い自分があるから強くあろうとし、強くあろうとするために弱さを知ろうとする。

それが、リョクシャカの曲が持つ普遍性、誰の心にも寄り添い、そして、曲と一緒にリスナーも、あるいはリョクシャカのメンバーも成長していく。

リョクシャカというバンドのストーリーは、リスナーのストーリーでもあり、人間の成長記でもある。

それがこのバンドの求心力の神髄なのではないでしょうか。