ヨルシカが8月18日に新曲「老人と海」を発表しました。
ヨルシカは6月に「又三郎」を公開しており、宮沢賢治の「風の又三郎」をモチーフに現在の暗い社会情勢を吹き飛ばしてくれ!と叫ぶロック曲に仕上がっていました。
今回はなんと、あのヘミングウェイの名作「老人と海」をモチーフにした楽曲になっており、プレスリリースから「あの難解な話を曲にできるのか…?」なんて不安がよぎりましたが、なんとも斜め上を行く出来栄え!
ヨルシカといえば夏の曲のイメージですが、新たな夏の名曲の誕生です。
あえて原作の筋には触れなかったことが素晴らしい
ここで「老人と海」を未読の方のためにチラッと解説すると、
主人公は漁師の老人で、今ではみんな網を使って漁をしているのに、この老人は「俺は一本釣りでしか漁はせん!」と言って、今でも貧相な船と釣り竿だけで漁をしています。
ある日、彼は3日間の死闘の末に巨大なカジキを捕まえることに成功します。だけど、あまりにも巨大で船にあげることはできず、横に縛り付けたまま港に戻ろうとします。
しかし、カジキの血の匂いを嗅いでサメが集まってきて、彼がとらえたカジキをどんどん食べて行ってしまいます。
結局、老人が港に戻るころにはカジキは巨大な骨になっていました。
老人は「この骨を見ろ!確かに俺はカジキを釣ったんだ!」を言い張りますが、誰も信じてくれません。
と、こんな話です。
この話は、過去の栄華に縋り、腐敗した政治が次第に機能不全になっていくだろうという暗喩が込められているとかいないとか。
とにかく、社会的な小説で、難解なんです。
これをどう曲にするのか?
しかし、やはりn-bunaさんの采配は天才的でした。
この曲は、カジキを釣った日からしばらく経って、老人が奥さんと一緒に浜辺に歩いていく、その瞬間をゆっくり、ゆっくり、老人の足のようにとにかく一歩一歩、丁寧に描いた曲。
そして、最後には海にたどり着き、その光景にあの日の栄華を思い出す…。
実は完全にアフターストーリーなんです。
ジャケットにもよく見ると、船の横にはカジキの骨が。
おそらく、老人にとって、カジキを釣った思い出とこの骨は宝物で、誇りなんだと思います。誰も信じてくれないけど、自分だけが持っている信念。
曲のラスト、最後に老人は海を見晴らすわけですが、明示されてはいませんが、おそらく、老人はあの日の死闘のこと、その誇りを思い返したことでしょう。
しかし、それを奥さんに自慢するでもなく、そっと心の中にしまっている…。
ここに、実は十二分に「老人と海」の本質が詰まっているのです。
何ひとつ、小説の描写はないけれど、確実にこの曲は「老人と海」なんです。
そこが素晴らしい。
さて、このままいくと、ヨルシカの次のコンセプトアルバムは名作小説のオマージュ作品になりそうです。
どんなふうにまとめてくるか、楽しみで仕方ありません!