ヒゲダンの新曲「アポトーシス」のMVとニューアルバム「Editorial」が8月18日に発売されました。
ヒゲダンはすでに国民的バンド。しかし、「I LOVE…」や「Cry Baby」では実験的なアプローチに走り、世の中に衝撃を与えました。彼らが、今、なにを紡ぎだそうとしているのか、探っていきたいと思います!
20代の終わりに見出した「老いへの恐怖」
新曲「アポトーシス」を聞けばわかる通り、この曲は「老いへの恐怖」がテーマです。
インタビューでボーカルの藤原聡さんはこう語っています。
先日、29歳になったんです。そしたら、「ああ、ついに自分の20代が終わってしまう…」という恐怖にかられたんです。いつまでこうやって元気にライブできるかわからないし、いつまで高い声が出せるのかとか…。
だから、今こうして活動できている、歌えているこの瞬間を大切にして、その不安も含めてそのまま歌にしよう、と思いました。
このアルバムはまさにコロナ禍で作られたアルバムです。ですから、藤原さんの語る不安の中には「この先、世の中がどうなっていくのか」「いつになったら自由にライブができるのか」「このままの活動の仕方でいいのか」という迷いや葛藤が含まれていると思います。
しかしながら、これはこの時期、誰しもが抱えていた不安だと思います。先の見えない暗闇の中で疲弊し、摩耗していく心…。
藤原さんも最初はこの曲をもっと救いのある形にしたかったそうです。しかし、それをやってしまうと、すこし嘘が出てしまう。それよりは、この不安をそのまま吐き出したほうが、今、不安を抱えているリスナーに寄り添えるのではないか、と考え、この形に行き着いたそうです。
不安な時はきれいな言葉で慰めるよりは、「わかるよ、その気持ち」とただ共感してくれるほうが安心します。
ここにヒゲダンが国民的バンドである理由が隠されていると思います。
さて、肝心のアレンジなのですが…。
なんと一番はほぼすべて打ち込み!
楽器を演奏してません!
そして、この浮遊するような地に足のついてない、不安定なサウンド。
ここに藤原さんの揺れ動く心が表現されていると思います。
こんなに攻めたアプローチなのに、ちゃんとJ-POPとして聞こえるのは、やはりメロディと歌詞がいいから。
この曲でヒゲダンはある証明をしたと思っています。
それは、
「歌詞とメロディが良ければ、どんなに攻めたアレンジをしてもJ-POPになる」
ということ。
今後のJ-POPシーンではヒゲダンのようにJ-POPでありながらも他ジャンルと行き来する、自由で挑戦的なサウンドに変わっていくでしょう。
「Cry Baby」はいかにして生まれたか?
5月に公開され、”ジェットコースター転調”と呼ばれているめちゃくちゃな転調で話題を呼んだ「Cry Baby」。
インタビューではこの曲についても触れています。
「Cry Baby」の転調はアレンジ中にぱっと思いついて。それでメンバーに歌って聞かせたんですよ。「こんなのどう?」って。そしたら、すごく微妙な感じだった(笑)
「でも、一回合わせてみようよ」って言って合わせてみたら、「あれ、今、いけたね?」みたいな。すごく偶発的に生まれたものなんです。
なんと、天才的なひらめきによるものだった…!
しかし、普通のバンドはこんな攻めたアプローチはとらないです。
どうやら、この曲は12回転調するらしいです。(メンバーも知らなくて、ファンが教えてくれたらしい)
そんなの、まず、カラオケで歌われないじゃないですか。
でも、これ、一回聞くとちゃんと頭に残るんですよね。で、ちゃんと歌えるんです。
そこはもうアレンジの技としか言いようがない。
邪魔をしないように、ひっそり転調してるんです。だから、歌いにくくはない。
やっぱり、ヒゲダンはアレンジにおいても天才ということですね!
ヒゲダンのイメージにとらわれて曲がつくれなくなっていた
インタビューではこうも語っています。
いわゆるヒゲダンのイメージってあるじゃないですか。ポップな曲、それこそ「Pretender」みたいなものが求められることに対しては抵抗はないんですけど、それでバンドの作る曲がロックされてる、自由じゃなくなってると感じてしまって。
だから、このアルバムでは自分たちの好きな音を詰め込みました。バンドが健全であるためにも必要なマインドだと思います。
確かに、ヒゲダンのイメージといえば、ロックバンドというよりもポップバンド。
だから、「I LOVE…」も「Cry Baby」いい意味で裏切られた感じがしたんですよね。あ、そういうのもできるんだ!すごい!って。
個人的にはこのアルバム「Editorial」はヒゲダンがロックバンドになるための宣言だと思っていて、
「アポトーシス」が2曲目、
「I LOVE…」が3曲目、
「Cry Baby」が6曲目、
と普通、序盤にそんな攻めた曲置かないでしょ!っていう位置に入ってるんですね。
で、
「Laughter」が12曲目、
「Universe」が13曲目と、
終わりに近づくにつれてポップになっていくんです。
この流れは発明だと思っていて、パッと聞いて、
「え?これがヒゲダンのアルバムなの?これってJ-POPなの?」
って思うんです。
だけど、聞いていくうちにだんだん耳が慣れてきて、そしたらどんどんポップになっていく。
だから、聞き終わると、
「ああ、素晴らしいポップアルバムだな…」
って思うんですよ。
帰着したいところがヒゲダンは「J-POP」と決まっているので、最終的にポップになるように初めから設計されてるんです。
だから、このアルバムは発明であるし、事件でもあるんです。
国民的バンドがここまで挑戦的なアルバムを出したことは、ここからメジャーシーン内で大きな変革を呼び起こします。
実はすでに米津玄師や星野源、King GnuがJ-POPを革新しようと躍起になってるんですけど、ここにきて、ヒゲダンも加わり、もはや、どんなものでもJ-POPの枠に収まってしまう土壌ができてきてるんですね。
だから、僕は今、一番面白いシーンはK-POPじゃなくてJ-POPだと思ってます。
旧来型のJ-POPが壊されて刷新されていく様子は見ていて本当に圧倒されます。
音楽シーンの革命はアメリカでもイギリスでも韓国でもなく、日本で起きてるんです。
このアルバムが、どうJ-POPを変えるのか?
こうご期待です!