MIYAVIと言えば凄腕のギタリストとしてみなさん知っていると思う。しかし、このアルバムはギタリストでありながら、ギターロックではない。ダンスミュージックなのだ。ほとんどギターが出てこない曲もある。なぜここまで大胆に振り切ったのか?それは世界的にギターロックが衰退、いや滅亡の一途をたどっていることが理由だろう。しかし、MIYAVIの音からはほとばしるようなギターへの愛が詰まっている。それが肌で体感できる。つまり、彼はギターロックをあきらめたのではなく、一歩前進し、より現代的なギターサウンドを確立するため、今、日本で最もポピュラーな音楽、EDMとギターロックとの融合を目指したのだ。
とにかくギターの音がすさまじい。MIYAVIはギター一本だけで迫力あるライブパフォーマンスをするアーティストとして有名だった。実はそのサウンドはエフェクターにより緻密に作られた音なのだ。オクターバーというギターエフェクターがあって、これを踏むとギターの音にプラスされて1オクターブ下の音が合成されて出力される。これが彼の刺さるような鋭利で音の壁のようなギターソロの秘密。自動的にベース音も出力されるので、ベースなしに重厚なソロを奏でられる。そして、その緻密な音作りは今回、最も力を入れたと推察される。EDMトラックと混ぜるため、わざとギターをシンセサウンドのように鳴らしているのだ。あるときは包むようなパッドサウンドになっているし、プラック系の張りのあるカッティングも聴けるし、シンセソロのようなギターとはまるで思えない鋭利なサウンドが耳に飛び込んで来る。ホーン隊と絡んで、重厚なアンサンブルを奏でる曲もある。
ギタートラックとEDMトラックの混交は珍しくはなく、特に日本ではサカナクションがそのパイオニアとして知られている。しかし、実はサカナクションもよく聞いてみるとシンセパートとギターパートは完全に分けて作っているのがわかる。しかし、MIYAVIの本作は完全にギターとシンセが融合している。そして、EDMトラックの出来もすさまじい。ギタリストとしてではなく、ボーカリストとしても、トラックメイカーとしても一流できちんとトレンドをおさえてたサウンドを作りこんでいる。
また、往年の歌謡曲「TOKIO」と「止まらない ha-ha」のカバーも入っている。なぜいれたんだろう?と思ったけど、これはこれでTM NETWORK的な90年代的アプローチの曲になっており、面白い解釈だと思う。そういえば、TMもギターサウンドとテクノを完全に融合させていた。実は日本人の方が、シンセとギターの絡み合うサウンドは好きなのかもしれない。洋楽ではあまり聞かれないからだ。
さて、この曲たちはいったいライブではどうやって再現されるのだろうか?今はライブが難しい状況にあるが、いずれ凄腕ギタリストがここまで練り上げたダンストラックをどのようにプレイするのか非常に楽しみだ。