このアルバムはタイトルからしてすべてを物語っている。女性シンガーソングライターであるNakamura Emiが自分の女としての誇り、日本に生きることの誇りを歌った曲がそろっている。
Nakamura Emiはとても独特の声質を持っている。とてもハスキーでそれでいて太くはなく、時に鋭く感情を揺さぶる。また歌唱法が独特で、どことなくフォーキーな曲が多いし、曲によっては歌謡曲に近いものもある。
内容も日々の生活で感じたことをそのまま歌にしたものが多い。僕は「ふふ」という曲が大好きだ。
そんなとき コンビニのおばちゃんが話しかけてきた
「あんたのそのかばんかわいいね。作ったの? すごいね~」
いきなりでびっくりしたけどおでんの湯気を一緒に吸った
私のメガネが曇って気づいたらちょっと笑ってた
Nakamura Emi 「ふふ」
このなんでもない日記のような歌詞。今どきここまで生活感を出した歌詞をかける人がいるだろうか。曲もとてもおだやかで心の奥からそっとあたたまるような曲だ。
彼女の歌はとても生活に密着している。自分をさらけ出すんだという気概を歌詞からひしひしと感じる。だからこそ、このタイトルなのだろうし、日本の女に本当にプライドを持っているのだ。そしてそのプライドは誰もが持てるものであることを高らかに歌う。それは僕の耳には、パンクロッカーが当たり前のように政権批判をしたり、労働者の現状を歌ったりするのと同じようなものだと思うのだ。日本はいまだに女性への偏見がそこかしこにある。世界は常に女性の権利向上に動いてきたが、保守的な日本はそこに後れを取っている。だからこそ、彼女は「日本の女を歌う」のだろう。そこには必然性があり、現状を変えたいと希求するハートがある。僕には彼女の歌はロックに聴こえる。精神性がパンクにとても似ているからだ。
また、「大人の言うことを聞け」という曲も歌詞が素晴らしい。タイトルからして説教なのかな?と思うけれどよく聞くと違う。
でも大人の言うことを聞け 決して言うとおりにしろじゃない
光っていたら信じて
腐っていたら反面教師
聞いて 流して 信じて 捨てて 良くも悪くもお手本だ
子供と大人の真ん中の子の曲も聞いて捨てろ
Nakamura Emi 「大人の言うことを聞け」
彼女は「大人」に対しても偏見の目で見られていると危惧しているのだ。世間に出たら、若者はただの経験の少ない若造でしかない。そういう人が自分より経験豊富な大人を否定するのは間違っている。うるさい助言も時には役に立つのだ。そして絶対的に信じろと言っていないのもこの曲のすごいところで、こういうセンセーショナルな曲はどちらか一方の視点にしか立っていない場合が多いのだが、この曲は大人と子供、両方が分かり合えることが目的なのだ。子供が聞けば、そうか、大人もわたしたちのためを思って言ってくれてるのかもしれない、それは親切なのかもしれない、悪意ではないはずだ、と思うだろうし、大人が聞けば、そうか、若者にはこういう風に自分たちが見えているのか、もっと若者に寄り添って、いい手本になれるようにしなきゃと思うだろう。そして、実にメッセージ性の強い、パンクな曲だと思う。
女性シンガーソングライターが増えてきた。そして彼女たちはそれぞれに個性的な視点である種、物語るように曲を書く。あいみょんもストーリーが独特だ。僕は女性には女性にしか見えない視点があると思う。僕はそれを女流作家の純文学を読んで知った。男性作家とは世間を見る視点が全く違うのだ。そういう部分は音楽になることによってより際立って、訴求力のあるメッセージとして浮き上がってくる。彼女たちが描くストーリーがどこへつながるのか、僕は楽しみでしょうがない。