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ディスクレビュー-Eve「smile」

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間違いなくEveの最高傑作である。そして、今年の躍進がもう約束されたような非常に完成度の高い、密度の高いアルバムである。

Eveはもともと歌い手でニコ動出身のアーティストだが、次第に自ら作詞作曲するようになり、歌い手からアーティストへと変貌を遂げていった。「ナンセンス文学」「ドラマツルギー」「お気に召すまま」で謎の多いミステリアスなMVとときに散文詩的で不可思議な歌詞、そしてその透明感のある声、高く鳴り響くハイトーン、まさにてんこ盛りな仕様で動画がYouTubeに投稿され人気を博した。この辺の流れは実に「ずっと真夜中でいいのに。」とよく似ている。Eveのほうが早いので、ずとまよの方がまねしたのだと思うが。その後、2017年「文化」でメジャーデビュー、続いて2018年には「おとぎ」をリリース、そして2020年2月12日「smlie」をリリース、と息つく暇もないほどの多忙さで駆け抜け、成長を遂げていった。

まず、このアルバムはタイアップ曲が非常に多い。なかでもロッテガーナのヴァレンタインCMに起用された「心予報」は話題になったし、この曲で知った人も多いはずだ。今までのEveとは違う、心躍るようなリズムに軽やかなエレクトロサウンドにEveのハイトーンが混ざり合って最高のカタルシスを味わえる。ポップソングとして一級品だ。まず、今までのEveにはこんな開けた曲は書けなかった。今聞くと「ナンセンス文学」なんて何を歌っているのかもわからないし、暗すぎる。(もちろん、そのときにはそれが新しかったのだが)Eveもマスに受け入れてもらうためにある種戦略的にポップスをつくることに傾倒したのだろう。

そこには、まず、「闇夜」という曲が初にタイアップであるアニメ「どろろ」のEDとして書き下ろされたことが大きい。この曲からEveは変わり始めた。この曲は打ち込みと生楽器がまじりあう、ミドルテンポの曲であり、今までになかったエレクトロな要素もあるし、暗い曲だけど、その「暗い」というイメージがより深く洗練されている。もっと奥深くの深奥をのぞく曲になっている。それはどろろの影響もあったのだろう。

そして、JR SKI SKIの曲として「白銀」が書き下ろされたことも大きい。JR SKI SKIと言えば過去には[Alexandros]などこれから必ずヒットするアーティストがあてがわれる。その地位にいることが認められ、そしてポップソングとして突き抜けた魅力を放つ「白銀」を書きあげた。

このアルバムは実に様々なジャンルがごちゃまぜに混合されていて、あるときはエレクトロっぽいのに途中から生バンドになったりする。ポップソングもあれば深い闇を歌った曲もある。特にアルバム最後の曲としてはあまりに不穏な「胡乱な食卓」という曲がある。正直、後味は悪い。ほかに適任の曲はある。でも結局、Eveというアーティストは心の闇を歌いたいのだという決意表明のようにも感じる。これはこれで素晴らしい。リスナーにかみついてまでメッセージを伝えようとする姿勢は実にロック的だ。

僕は「文化」は素晴らしかったが、「おとぎ」あまり評価できなかった。なぜならほとんど「文化」と違いがなかったからだ。しかし、この「smile」でEveは化けた。もうどんな曲だってかけてしまうだろう。アーティストとしての成長もあるし、「心予報」ではいつも編曲を担当しているNumaではなく別のエレクトロに強いアレンジャーが担当しており、そこでまた変化がある。Eveは積極的にライブを行ってきたが、そこで様々なつながりができてきて、今回、コラボレーションするということになった。一時期、DTM全盛の時、アーティストはすべてのアレンジを一人で、あるいはバンド内で完結しなければならない、というような状況があった。しかし、それではあまりにも効率が悪い。専門家に任せたほうがクオリティも担保される。そうした方向に音楽産業も向かっているようである。それぞれの強みを生かし、お互いを刺激しあえるいい環境になってきたと言えるだろう。本来、音楽というのはセッションによって生み出されるものだった。それがパソコン一台で完結できるようになって、自由が生み出されたように思えたが、それは違って、一人が全部を担当することによって効率は下がり、クオリティも下がる結果になった。音楽というものはやはり人と人とのかかわりの中で生まれるものなのである。ヒゲダンも「I Love…」では外部のクリエイターに頼ったそうだ。そういうチーム制作はより音楽を前進させるためのキーとなるだろう。

Eveは2020年の音楽業界の中心地、渦となってどんどんマスに浸透していく。この先彼がどんな変貌を遂げていくのか、楽しみでしょうがない。