ここでまた洋楽が出てきます。4位、The Weekend。彼は来年のグラミーに確実にノミネートされるだろう。来年のグラミーはテイラー・スイフト、アリアナ・グランデ・ビリー・アイリッシュ、レディー・ガガ、Dua Lipaという歌姫対決に、The WeekendとThe 1975のエレクトロR&B対決が見どころになりそうだ。
The Weekendもグラミー常連だ。彼は一貫してR&Bにこだわってきたが、そのサウンドは常に進化し続けた。最初からシンセをガンガンに使い、R&Bの形態を少しづつ変えていった。そしてその極地がこのアルバムに現れている。80年代ディスコ・ポップをにおわせながらも、その音像はダークでアンビエント。奥行きがあり、まるで深淵の闇をのぞくよう。思わず、「深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」という言葉を思い出してしまう。
しかし、決して、ダークなだけではなく、ポップな側面もあって、特にこの「Blinding Lights」のイントロはポップで、きゃりーぱみゅぱみゅがTikTokで踊って話題になってりした。MVも血まみれだし、ダークな世界観には違いないんだけれど、そこから決死に希望へと手を伸ばす人の姿が想起される。
彼は黒人で、ケンドリック・ラマーと同じく音楽で黒人への差別と偏見の打破、「ブラックライブズマター」を体現しようとしたのだろう。多くの黒人がラップに走ったのに対して、彼はその美しいファルセットに身を任せ、R&Bというジャンルを選び、その先駆者となって今は後進の黒人R&Bを導くアイコンとなっている。
どうやったらこんな音がシンセで出るのか、僕は全くわからない。普通、シンセの音はいじりすぎるとめちゃくちゃな音になってボーカルの邪魔をする。しかし、彼のシンセの使い方は独特で歌に寄り添うようになりつつも、重低音、そして音の空間像を広げ、人々のインスピレーションを刺激する。
EDM時代、シンセは派手でなんぼだった。しかし、今はアナログ回帰ブームが起きて、シンプルで太い音が好まれるようになった。それはこのアルバムにも言えることでおそらくほとんどハード音源を使っているだろう。だからこその音の厚み、倍音豊かな音像に仕上がり、リッチでかつ図太い音になっている。
もはやこのサウンドは彼にしか作れないオリジナルなのだ。シンセ以外にもディレイやリバーブの使い方がうまく、おそらくそれもビンテージのアナログだ。
まさに80年代の機材を使って作られた現代の音楽と言えるだろう。