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「PSYCHO-PASS 3 FIRST INSPECTOR」バトンは虚淵から冲方に渡された

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3月27日よりPrime Videoにで公開された「PSYCHO-PASS 3 FIRST INSPECTOR」を見た。これは、去年10月クールのテレビアニメ「PSYCHO-PASS 3」の劇場版であり、続編だ。

実はテレビ版サイコパス3は途中で終わっており、ほぼすべての謎が解明されないままに終わり、同時にこの劇場版の発表があった。いわば、おあずけを食らったわけで、考察班もそうとうに考えを練ったことだろう。

テレビ版サイコパス3は脚本が原作の虚淵玄でないこと、そして、失敗作と言われているサイコパス2の脚本家である小説家の冲方丁がシリーズ構成・脚本に参加するとあって、実はサイコパスファンの間では不安な声も見られた。冲方は作家出身の強みを生かして社会問題やその世界感を丁寧に掘り下げることができるのだが、いちいちセリフが難しく、ストーリーも超難解でアニメファンの間では評価が分かれる人なのだ。

しかし、結果としてテレビ版サイコパス3は大成功だった。8話構成・1話45分という挑戦的な構成ながら、とても45分とは思えないスピードで次々に状況が変化し、ストーリーが進んでいく。そして、初代サイコパスはシビュラシステムの可否についての話だったのだが、それを受けてサイコパス3ではシビュラは正しいものという前提で話が進み、それでもなお発生する社会問題に切り込んでいく、という意欲的な展開なのだ。

まず、第一章では資本主義の功罪について述べられた。資本主義は大多数の労働者層の犠牲の上に成り立っているのであって、その上に立つ富裕層はその責任を負わなければならないし、まして利用してはならない、ということを説いた。これはなかなか鋭い洞察だった。サイコパスは舞台が22世紀なのだが、バブル経済は必ず破綻する経済システムであり、それを意図的に発生させるのは違法なのだそうだ。つまり、徹底的に資本主義の在り方を否定している。少数の資本家が蜜をすい、働きアリのように労働者を酷使するのは間違っている、というのだ。

そして、第二章。ここでは今まで目を当てられてこなかったシビュラシステムが導入されていない闇社会が舞台となる。犯罪係数オーバーの潜在班は自動的に更生施設送りになる。しかし、それでは施設がパンクするため、シビュラは意図的にシステムの影響外の地区を作った。そこではいわゆるギャングがいまでも権利を握っており、そこと公安局との対決が見どころだ。実は初代サイコパスはこうしたシビュラの現実的な側面を描き切れていなかった。しかし、実際はこうした反社会勢力も存在することでより現実味を帯びたのだ。これは素晴らしかった。

そして第三章。劇場版サイコパスから5年を経た世界では鎖国した日本以外のすべての国々で紛争が起き、日本が開国したことで一気に移民が流入し、移民者は犯罪係数が高いのではないか、、仕事を取られるのではないか、という不安から極度の差別を強いられることになった。これは現在の世界情勢と一致するものである。最終的に宗教家が日本人が今まで移民者に強いてきた犯罪を告発するために大規模なテロを起こし、犯人の死亡をもって幕を閉じた。果たして、その死に意味はあったのだろうか?

そして劇場版へとつながるのである。あらすじを見てもらえばらかると思うが、サイコパス3は非常に社会的な問題を風刺しており、現在の日本・世界との関連も強い。今までわたしたちにとっては理想論にしか感じられなかったシビュラが実は多くの欠陥を持ったディストピアであるとわかり、より、親近感をもってその世界観に没頭できるのだ。これは虚淵にはできない。冲方でなかればできなかったことだ。

さて、劇場版のあらすじを簡単に述べよう。シビュラシステムに対抗する組織・ビフロストの駒である梓澤康一の手によって、なんと厚生省公安局すべてがジャックされてしまう。シビュラへのアクセスも不可。扉はすべてロックされ、下層階には毒ガスが充満、さらに潜在犯が反乱を起こし、襲ってくる。まさに万事休す。今までは考えられなかった危機が公安局を襲う。そこで公安局刑事課一係が奮闘し、テロリストと戦うのである。さらに、初代サイコパスのメンバーも外務省行動課として参戦、夢のタッグが見れる。

まず、その激しい戦闘描写に驚かされる。絶対にテレビアニメではできない、劇場版だからこその豪華さだ。スピィーディーに繰り出される技の応酬に興奮すること間違いなしだろう。

そして、なんといってもサイコパス3は二人の主人公、慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフのバディものであるところが魅力の一つだ。彼らの強い絆が事件を解決に導いていく。

実は劇場版でも明らかにならなかった謎がいくつかある。それは今後も冲方脚本でサイコパスを継続的に続けていくということだろう。これは楽しみだ。というか、もう、ここまでの規模まで拡大すれば、監督や脚本家が変わってもサイコパスの本質は変わらない。そこまで強靭な物語世界を構築するに至ったのである。

今後のサイコパスの動向にも目が離せない。