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ザ・ウィークエンド「After Hours」最高峰の極上ポップ

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もはやグラミーの常連となったザ・ウィークエンドが放つ渾身の最新作。本作はシンセの割合が非常に高く、より洗練された音になっている。ジャンルはR&Bになるのだろうが、曲によってはトラップのように重低音が響く重い曲もあるし、「Blinding Lights」のような耳から離れなくなるイントロが印象的なシティポップもある。

本作はポップアルバムでありながら、そこに異質な重低音を混ぜているのが面白い。これは明らかにトラップからの影響だろう。ヒットチャートは重低音の大きさで争っているような感じさえある昨今、そこに着目するのは必然だったのだろう。しかし、それでザ・ウィークエンドのポップネスさ、R&Bのソウルが失われるはずがなく、彼独自の、ミステリアスでどこか陰鬱、それでいてメロディはポップ、といういつもの混沌としたサウンドになっている。

つくづく、ザ・ウィークエンドは不思議なアーティストだと思う。「Blinding Light」だってそこまで暗い曲じゃないのに、なぜこんなグロテスクなMVにしたのか。彼のメロディはいつだってシンプルで、だからこそポップだった。しかし、今回、彼はそこへグロテスクさをプラスした。何度も歌詞の中に「fuck」という単語が出てくる。Apple Musicで聴くとその部分だけカットされるのって何とかならないんだろうか…。彼の気持ちはよくわかる。コロナウイルスの混乱は本アルバムに影響を与えたかどうかはさがかではないが、なんといっても今年はアメリカの大統領選なのだ。この状況下で国民投票が行えるのかは疑問だが、トランプ政権に言いたいことはやまほどあるだろう。彼は黒人だし、ケンドリック・ラマーが起こした「ブラック・マター」運動に影響を受けなかったはずがない。彼は白人が支配する世界に対して、いまだ差別の残る世界に対して「fuck」と言っているのだ。それをこんなきれいなメロディに乗せてしまうのだから大したものだと思う。

このアルバムはいつにもましてミステリアスで陰鬱で、中にはポップアルバムには全然聞こえない!という人もいるかもしれない。なにせ、ジャケットが口から血を流して笑ってる狂気的な写真なんだから…。しかし、何度も聞くうちにこの作品に流れている血はポップネスそのものだ、ということがわかるだろう。彼はコラージュがうまい。ポップなメロディとミステリアスで陰鬱なサウンドを彼は調合し、化学反応を起こしたのだ。結果出来上がったのは未知のサウンド。暗いけど人懐っこい、そんなアルバムになった。

現時点でこのアルバムは本ブログの年間アルバムトップ10の上位に入り込む余地が十分にある。暫定で一位といっても過言ではない。そのくらい、すごい。サウンドの斬新さ、メロディのキャッチーさ、どれをとっても一級品だ。グラミーに選出されるのも間違いない。グラミーは白人ばかり受賞していると批判を受けているが、来年は主要四部門にザ・ウィークエンドが選出されてもおかしくない。今のうちに聴いておこう。