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キリトはチートなんかじゃない

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毎週、SAOを楽しみに見ているのだが、今回のアリシゼーションは一味違う。AIの世界、という魂に重みがある世界、なのに残虐で苛烈な運命が主人公たちを待つ。そしてついに訪れる最終決戦。10万対3万という軍隊アニメーションを(おそらく)Unityの軍隊シュミレーション機能を使って見事に成功に導き、セル画とCGの見事な融合を繰り広げている。その壮大なスケールと物語の重みに圧倒されるばかりだ。

 

さて、そのSAOの主人公であるキリトだが、よくチートだとか、俺TUEEE系の主人公として扱われることが多いように思う。

 

しかし、実際は違う。もちろん、キリトは脳の反射神経系が極端に早いということが物語中で示唆されるが、基本的にキリトというのは罪を背負ってきた暗黒騎士、というイメージのほうが強い。

 

第一章アインクラッド編の第一階層攻略の時、ベータテスターが強いのはすでにボス戦を経験しているからで、圧倒的優位ではないか、という意見が増え、ベータテスターの風向きが怪しくなり、そしてボス戦は作戦が裏目に出て、多数の死者が出た。周りはベータテスターが生き残ったことを不審に思い、そこでチーム内で亀裂が走る。そこでキリトは自分でその罪をすべて背負うことに決めた。自分はベータテスターでチート、つまりはビーターだ、というのは名台詞だと思うが、この瞬間からキリトはチームに属さない、孤高の戦士となる。彼の剣はそのときのクリアボーナスで、これを独り占めすることによって、全員の恨みを自分が引き受け、場を収めようとしたのだ。だから、キリトのあの黒剣は罪の証みたいなものだ。

 

そして、アリシゼーション第一話でキリトはアインクラッドでの暗殺者ギルド討伐作戦のことを振り返っている。暗殺者ギルドは快楽のためにSAOサバイバーを意図的に殺し、殺人を犯していた。そのときの討伐戦で彼は何人かのプレイヤーを殺している。だから、自分は人殺しなのだ、と回想している。そして、この認識がアリシゼーション内でのキリトの立場を明確にしている。

 

アンダーワールド内の修剣士学園の後輩が先輩に強姦されそうになった時、彼は躊躇なく剣を取り、その先輩を切り殺した。そこには、悪は切り殺してもいい、殺人は罰せられるべきことだが、この人間は切り殺すに値する、という思考が透けて見えるのだ。彼はある種、露悪的に悪を切り殺したのだ。だけど、その後に監獄に入れられる際には素直に従った。これがキリトの正義感なのだ。

 

キリトは基本的に自分は殺人者だと思っているし、理由があれば人を切る。だけど、その罪は一生背負うべきものだ、と言っている。彼は常に罪の意識とともにあった。だから、彼はチートかもしれないが、俺TUEEE系ではないし、もっとダークヒーローに近い。バッドマンとか、そういう感じだ。だから一概にチートとも言えない。チートというと極端に強くて一人で無双する感じ、そしてもっとエゴイスティックでなければならない。キリトは確かに無双してしまうが、エゴイスティックではないし、むしろ彼の自己評価は低いみたいだ。数々のVRMMOで勝利してきた、だけどそこになんの価値があるのだろう?と常に自問自答している気がする。普通のチートはもっと自己評価が高くて、悦に浸っていそうなものだ。しかし、キリトは現実世界ではただの人間だし、偉そうにもしない。だから信頼できる。自己投影できる。きわめて特異なキャラクター造形だと僕は考える。