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[小説]Black Lives Matter-エピローグ

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2120年5月25日、世界最大の量子コンピューターA.I.Dが機能停止。これにより、アドミゼブルという国家は崩壊した。国境付近のゲートが破壊され、そこからグリートの治安維持軍が潜入。アドミゼブルの国民はグリートに非難した。
 5月30日、グリートはアドミゼブルの併合を発表。AIによる統治国家は終わりをつげ、もとの民主資本主義社会へと戻っていった。
Black Lives MatterはA.I.Dに立ち向かった英雄として讃えられ、音楽によって革命を成し遂げた初のバンドということで国連から表彰されることになった。世界を変えた5分間のライブ放送は今でも伝説のライブとして語り継がれている。
彼らが起こした音楽による無血革命は、人類史に刻まれる偉業としてこれからも多くの人に勇気を与え続けるだろう。

「おい、アーノン、パンク直ったか?」
 クルトが運転席から後部車輪のほうを覗き込む。
「あとちょっと……」
 アーノンは汗を拭きながら、無表情でタイヤの補修を行う。
「ったく、なんで俺たちはこんなところで車を走らせてるんだよ。俺たちは一応、英雄なんだぜ」
「まったくだよ。なんであたしらがこんなオンボロのトラックの荷台に乗んなきゃいけないんだよ。それもこれも、お前のせいだからな」
 カロンが俺をにらみつける。
「わたしも熱いところは苦手……」
 イリスまで俺のことを非難してくる。
 俺たち、Black Lives Matteは現在、砂漠地帯を横断中だ。
「それもこれも、レオがレコード契約を蹴ったのが原因なんだからね!」
 イリスに痛いところを突かれる。
そう、俺たちBlack Lives Matterのところには当然のように、とんでもない額の契約金でオファーが来た。でも、それを全部、断ったのだ。
「ごめんって。でも、俺の夢は世界中にブラックミュージックを届けることだから」
 そう。俺は金に興味がなかった。それよりも、俺たちのように自由に音楽を楽しめない人たち、子供たちに音楽をギフトとして届けるほうがいいと思ったのだ。
これから向かう国は、現在、紛争中だ。もちろん、危険もある。だけど、それは俺たちも通った道だから。音楽で戦争が止められるなんて思っちゃいない。でも、人の心をすこしでも明るくできると、俺は信じているから。それがやがて生きる力になる。
「ほんと、ごめん。俺の夢に付き合わせて」 俺が呟くと、みんなは一応に吹き出した。
「そんなの今更じゃねぇか!」
 クルトが笑い飛ばす。
「どんなに私たちを困らせてると思ってるの?」 イリスがクスクスと笑う。
「あたしたちは好きでやってんの。言わせんなっつうの」
 カロンがぶっきらぼうに言う。
「……悪くないよ」
 アーノンが無表情に呟く。
「みんな、ありがとう」
 俺は本当に生きていてよかった。こんなに素敵な仲間と出会えて、そして今でも、こうして夢を追いかけてるのだから。
「さーて、次はどんなライブにしますかね!」
「あたし新曲書いてきたんだ!」
「えっ?! ほんと?! カロン、いつの間に曲かけるようになったの?!」
「……楽しみ」
 俺たちは手にした自由を、誰かの自由のために使う。それが同志たちへの、最大の感謝と激励であると、信じているから。